2014.07.07
第2回 特別対局室の動と静 |
2013年1月12日、午前1時過ぎ。そのとき特別対局室は異様な雰囲気に包まれていました。局面は既に最終盤。羽生三冠が三浦八段の玉を詰ますことができるかどうかという場面です(肩書はいずれも当時)。
たまたま盤側で対局を見る機会に恵まれた僕は、三浦玉に詰みがあることに気づき、羽生三冠の方をチラリと見ました。きっと余裕の表情で次の手を指すに違いない、そう思っていた僕は、目を見開き、口も半開きで盤面を睨み続ける羽生三冠の姿を見てギョッとしました。何かがおかしい。反射的に盤面に目を戻し、そこで全てを理解しました。詰んでいるかのように見えた三浦玉は、実は数手先の逆王手※で逃れていたのです。秒読みに追われ王手をかけ続ける羽生三冠。対する三浦八段は無表情のまま、しかしその手つきは次第に勝ちを確信したかのように力強くなっていき、着手もどんどん早くなっていきます。数手後、三浦八段が受けの決め手を指すと羽生三冠は投了し、この特別対局室で新たに名局が誕生しました。
数々の名勝負が生み出されてきた特別対局室。終盤に入ると局面は激化し、秒単位で空気が激しく動くこの部屋ですが、日が高いうちは全く異なる顔を見せます。戦いが佳境に入るまでは、空気がほとんど動かないのです。着手の瞬間はわずかに空気が動きますが、またすぐに静止状態へと戻ります。一時間以上局面が進まないこともしばしばあるので、時折対局者が鳴らす扇子の音がなければ、時間が止まっているような錯覚を起こしそうになります。
狭い廊下を奥へ進む。右手には「大広間」への入口が見える |
突き当たりまで進むと特別対局室の入口。恐る恐る足を踏み入れると……。 |
狭い廊下から一転して、広々とした空間が広がる。この部屋で数々の名勝負が生まれてきた。 |
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いかがでしたか。動と静、二つの顔を持つ特別対局室。少しでもその空気を味わっていただけたのなら幸いです。
※逆王手とは 自玉の王手を受けた手が、同時に相手玉に対する王手になること。
当コラムは、二週に一度のペースで更新していく予定です。