2016.7.1
第28回 ソフトが定跡を創る |
「最初はソフトが指し始めたんですよね」と語るのは某若手棋士。ソフトが指す居角左美濃の破壊力に若手棋士たちが注目し、次々に採用を始めたというわけです。せっかくの機会なのでいろいろと話を聞いてみました。
――ところで、本当にこの戦法は優秀なんですか?
「賛否両論ですね。こんな単純な指し方で上手く行くはずがないという棋士も、結構いますよ。」
――でも、実際には勝率がかなり良い。 「まあ、この戦法を使う棋士は、徹底的に研究してから対局に臨む訳ですからね……実戦で何の準備もなしに居角左美濃に立ち向かうのは無理だと思います」
――一昔前は「ソフトの弱点は序盤」等と言われたものですが、今はソフトが序盤戦術をリードするような時代。他にもソフト発の定跡はあるんですか?
「横歩取り△8四飛戦法で、後手が△8六歩と合わせて飛車を切っていく定跡*1が流行っているじゃないですか。あれもponanza*2が最初なんですよ」
後手陣の構えが「居角左美濃」。玉の囲いもそこそこに攻めを開始する。あまりの猛威に、最近では先手は5手目(!)で変化してこの局面を避けるようになりつつある。
――現代の棋士にとっては、ソフトは切り離せないものになっている?
「いろんな意見がありますが、少なくとも若手棋士の大半はそう思っているでしょうね」
続けてこんな話をしてくれました。
「公式戦の話ですが、AさんとBさんの対戦で、終盤の課題局面まで一直線に進む定跡に進みました。先手番のAさんは事前にその局面をソフトを使って研究し、先手が勝つという結論を出していました。一方後手番のBさんは別のソフトを使って研究し、後手勝ちという結論を出していました。結果はBさんのソフトの方が正しくて、勝利を収めました。」
――どのソフトとどう付き合っていくかも重要なんですね。
「そうですね、ソフトの見解が全て正しいとも限りませんし、大変な時代になったものです。」
いかがですか。かつて級位者レベルだったコンピュータ将棋を知っている身としては、何ともめまいがするような話ですが、現にソフトはこれだけの影響を将棋界に与えるだけの存在となっているのです。願わくは、将棋の可能性を増やすツールとして、プロアマ問わず共生していって欲しいものです。
*1 2016年5月20日に行われた第29期竜王戦羽生名人(当時)vs豊島七段など、多くの実践例がある形。
*2 トップソフトの一角。今年4月の電王戦で山崎叡王を2連勝で破ったのは記憶に新しいところ。
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